北海道でアカダマスッポンタケを再発見

糟谷 大河(筑波大学生物資源学類)


澄み渡った9月の秋空の下,日本海を背に,わたしは北海道石狩市の海岸砂浜(図1)できのこを探していた.ハマニンニク,ハマボウフウ,コウボウムギなどの海浜植物が生い茂る砂丘には,たくさんのきのこが姿を見せていた.本州の海岸砂浜でも顔なじみのザラミノシメジ属Melanoleuca spp.(図2),ハラタケ属Agaricus spp.,コガサタケ属Conocybe spp.,シバフダンゴタケ属Bovista spp.(図3)のきのこのほかにも,ここ石狩海岸でしか見られない,ガマホタケ属Typhula spp.(図4)のきのこなど,この海岸には多様なきのこが生える.

 
図1(左).石狩海岸遠景.図2(右).Melanoleuca sp. ハマニンニク群落内で.

 
図3(左).Bovista sp. コウボウムギ,ススキ群落内で.図4(右).Typhula sp. ハマニンニク,コウボウムギ群落内で.

わたしは去年,北方菌類フォーラムの竹橋誠司氏ご夫妻の案内で,石狩海岸を初めて訪れる機会を得たが,そこで見られたきのこの多様性が強く印象に残っていた.そこで,今年もぜひ継続調査をしたいと考え,再度,竹橋氏ご夫妻のお手を煩わせ,産業技術総合研究所の星野保博士らと,9月25日に現地に出かけることができた.今年もまた,遙か北に暑寒別岳を望み,眼下には秋の日本海が広がるすばらしい景色の中,当初の目的である砂地生のホコリタケ類や,ガマホタケ属の一種のきのこを採集することができた.しかし,今年はこれらの菌に加え,思わぬ大きな収穫を得ることができた.それは竹橋睦子氏によって,アカダマスッポンタケPhallus hadriani Vent. : Pers.(図5,6)が発見されたことである.

 
図5(左).アカダマスッポンタケ.ハマニンニク,コウボウムギ群落内で.図6(右).アカダマスッポンタケの菌蕾を掘り起こした様子.

アカダマスッポンタケは,菌蕾や根状菌糸束が濃い赤紫色を帯び,托の頂端がスッポンタケP. impudicus (L.) Fr.に比べて鈍頭で尖らないといった特徴を持つ.また,グレバは悪臭がある.本種はスッポンタケ属Phallus spp.の中でもっとも早く記載され,1564年に出版されたオランダのHadrianus Juniusの著書に,”Phallus”の名で図示されている(小林,1976).Hadrianusの時代は,まだ現在の学名の命名法である二名法ができていなかったので,後にVententが二名法に従いPhallus hadrianiと命名し,Persoonもこれを採用し,現在に至っている.本種は海外では,ヨーロッパ,北アフリカ,コーカサス,中央アジア,北米に産することが知られており,いずれも発生環境は海岸または内陸の砂地である.

一方,日本からは,過去に3例報告がある.日本から初めて報告したのは川村清一で,1909年に東京の小石川植物園内に発生したという子実体の図と記載が,川村(1949)に掲載されている.その後,昭和初期に,和歌山県田辺市の倉庫内の綿花の塊から,南方熊楠が(小林,1976),戦後になって,新潟県の海岸砂浜から松田一郎氏が,それぞれ採集したという記録があるが,いずれも不確実なものであり,もはや本種は日本には分布していないのではないかという話もあった(浅井郁夫氏,談話).したがって,今回,石狩海岸で本種が見つかったことは,日本における,確実な標本記録を伴った本種の再発見として,大変重要な知見となった.石狩海岸では,本種はハマニンニクの群落内に群生しており,竹橋誠司氏によれば,ハマニンニクの根部に菌糸束が絡み付いているとのことで,生きたハマニンニクに寄生しているか,または枯れたハマニンニクを腐生的に分解して生活しているらしい.

現在,竹橋氏らと共同で,石狩海岸でのアカダマスッポンタケの子実体発生状況を継続調査しているが,詳しい発生状況やその生態的な知見も徐々に蓄積しつつあり,得られた知見は,そのうちにきちんとまとめて報告するつもりである.なお,本種はヨーロッパでは,グリーンランド,スカンジナビア半島から,英国北部にかけての海岸砂浜など,どちらかというと高緯度地方から頻繁に記録されている.日本でも,おそらく北海道や東北地方など,亜寒帯から冷温帯の海岸砂浜を中心に分布している可能性もあり,これらの地域の砂浜を精査する必要があるだろう.

末筆ながら,調査の機会を与えたいただいた北方菌類フォーラムの竹橋誠司氏,竹橋睦子氏,調査に同行いただき,貴重なご助言を賜った産業技術総合研究所の星野保博士,本種に関する情報をご提供いただいた浅井郁夫氏に御礼申し上げます.

引用文献
川村清一.1949.原色日本菌類図鑑 第六巻.94 pp. 風間書房,東京.
小林義雄.1976.南方コレクションの奇菌ハドリアヌスタケについて.植物研究雑誌51: 24-27.


2005.11.13 T. Kasuya

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